子どもの健康の変遷について~創校来の校医として~

日本の国力の衰退は行財政改革、教育改革、少子化対策を怠けたつけですが、 教育・少子化の実態は、 私どもの認識を変える必要があります。
学校健診は数・レベルから見て統計学的に信頼度の高いものです。 私は守山南中、物部小学校の創校来の校医として 40 年以上医学的に守山の子供達を見てきました。
2016 年度学校保健統計調査によると、 12 歳児 DMFT(総う蝕経験)指数は 0.84 本にまで減少、過去最低を更新しました。むし歯の罹患率は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校すべての学校段階において、ピークだった 1965~1975 年代より減少傾向が続いています。

子どもの健康の変遷について~創校来の校医として~

文部科学省学校保健統計調査

とくに守山市は、 1996 年小学校、保育園、幼稚園でのフッ化物洗口を、 私ども若い時代歯科医師会主導で導入しましたので、罹患率は半減しております。やっと欧米先進国並みになってきました。 当時、 非協力的な先生方も今は守山市を自慢しておられます。
日本の自然の水、井戸水や湧き水、海産物海藻類、お茶などはフッ素が入っており、そのうえ江戸期まではフッ素入りのお歯黒を塗って予防していました。 なお、ここで言うフッ素は自然の無機物で、よく問題になる有機フッ素化合物(PFAS)とは全く異なります。
但し、大人のむし歯は増加しております。 食生活の軟食化、咀嚼力の低下、唾液分泌量の減少(ドライマウス)及び食物の酸性化、 歯ブラシ歯磨剤の誤用が主な原因と考えられます。子ども達のむし歯が減少してきたことは、喜ばしいことです。
しかし、今の子ども達は昔の子ども達とは別の問題を抱えています。まず、調査の疾患のなかで、長年首位を独走してきた「むし歯」にかわり、近年急速に数字を伸ばしてきているのが「裸眼視力 1.0 未満」で、 2019 年中学校で 61.2%、 高等学校では 75.5%で各々第 1 位です。 小学校でも 1979 年 17.9%だったものが 2022 年 37.9%まで上昇。 近視は主因は遺伝ですが、 7-11 才で最も進行します。 日本だけではなく 世界中で増加傾向です。 また、 IT 化による内斜視の増加なども深刻です。
喘息も 30 年前と比較すると 3~6 倍と依然高い数字ですし、花粉症などのアレルギー性鼻炎は大人も含めて増える一方です。主に現代の生活環境や食生活で、不正な免疫反応によるアトピー、各種アレルギーなどは減ることはありません。 ただ、診療室をウイルスフリーにすると花粉症がなおることを見ても 、 「自然」 がキーワードと考えます。
歯科に関しましては、 1997 年以降学校教育法の一部改正により 健診項目に入った顎関節症、歯周病、特に不正咬合は急増しております。単なる治療の勧告だけでなく、これらの原因と予防の指導が必要です。即ち、 子音の発音が少ない不明瞭な日本語使用、 食物の軟性化、生活習慣の IT 化、などによる顎骨や歯槽骨の成育不良への対策が必要です。

子どもの健康の変遷について~創校来の校医として~

文部科学省学校保健統計調査

発育状態の項目に目を向けますと、戦後から上昇を続けていた身長・体重ですが、身長は 1994~2001 年にピークを迎えその後横ばいの傾向。体重は 1998~2006 年度あたりにピークを迎え、その後は減少傾向となっています。 いまだに日本人の身長体重が伸び続けていると思っている人が多いですが、認識を変えてください。 西日本の日本人と人種的に同じで、 日本の学校健診の残る 韓国と比較しても平均体重で約 3 ㎏、身長で約 3cm差があると言われ、最新の韓国政府の調査では 2023 年の平均身長は 10 年前に比べて男子中学生で 7.4cm、女子中学生で 3.3cm伸びています。
体力・運動能力調査の基礎的運動能力については、高かった 1985 年頃と比較すると、依然低い水準で、特に握力やソフトボール投げなどの筋力を使う項目での低下が著明です。

子どもの健康の変遷について~創校来の校医として~

最直近の 2019 年度の小 5 と中 2 の全国体力調査で 8 種目の体力合計点はいずれも低下、特に小 5 男子では過去最低となりました。 コロナ禍 2020 年での小学生のスポーツテスト(新体力テスト )はこの種のテストの開始以来最も低い平均値を示し、 2021 年はさらに史上最低を記録しております。
さらに以前より指摘されてきた背筋力の低下は、直立歩行により進化してきた人類の退化傾向を示しております。 スマホ、パソコンなどによる「侮れない猫背」 は万病のもとになります。 2005 年の調査でも姿勢の悪いと感じられる子は小学校で 75%に達しています。朝登校中の子供を見ると、背筋が曲がっている子が多いのに驚かされます。 体育座り、睡眠態癖、頬杖などの姿勢や態癖の矯正の指導や、枕を低くしたり位置を前にする 、江戸期の見台のように例えば座骨を意識し骨盤を立てる 正しい座り方、イスや机の調整などは、 スパルタ教育ではなく医学的に必要と考えます。 現在のスポーツ医学に基づいた体幹のトレーニングはサッカーの長友佑都や、最近ではやり投げの北口榛花や水泳の大橋悠依の泳ぎ方が良い例です。
近年の体重の低下の原因に、筋肉量低下を指摘する 声もあります。 女性には、痩せすぎモデルは使われません、背中美人を目指して、 と指導して下さい。
なお、小中高の学校における骨折率は 1970 年代と比較すると 2.4 倍となっています。
これらの低下は、 IT化など生活環境の大きな変化により子ども達が外で遊ばなくなったため、運動習慣が 2 極化してしまったことが原因ですが、中学校などで、急激なクラブ活動などのためスポーツ医学を無視したことによる運動器障害やスクリーンタイムの増加に伴うストレートネック、 斜視、 顎関節症、さらに将来のロコモティブシンドロームにつながる深刻な問題でもあります。
野球や、サッカー、ラグビーなど世界に通用するアスリートなどスポーツで成績が向上している日本人は英才教育的な約20%であり 、 中でも、 いわゆる海外組で、低下している残りの約80%、特に運動ができない約20%の子ども達への対応が課題です。 従来の日本式練習法ではなく 医学生理学的、科学的なトレーニングが必要です。
アレルギー性鼻炎は鼻閉、口呼吸につながるので、当然歯列に影響を及ぼすものですし、体力の低下は姿勢を悪化させ、態癖の原因になることもあるので、やはり歯列不正の一因となる可能性があります。また、転び方の下手な子ども達が増えてくることは、前歯の脱臼や打撲・破折の増加につながります。むし歯は減りましたが、 新たな問題が増えている ようです。
上顎骨の発育不良は、鼻腔の狭窄につながり、 扁桃腺肥大は気管を狭くし、 ホ乳類が進化の過程で獲得した鼻呼吸を困難にし口呼吸へと退化させます。 食物をあまり噛まずに丸のみで早い、発音が気になる、食事が極端に遅いなど、 これはいわゆる「お口ポカーン」で病名「口唇閉鎖不全症」で健康保険が適用されます。日本の子供の 30%以上が罹患しており ます。 また口蓋が狭く舌の不正な癖でも不正咬合になります。 正しい姿勢、食べ方は正しい舌や唇の位置、口腔機能発育に重要です。 但し、 対策の一つに上顎骨急速拡大装置を装着すると 85%の鼻閉が改善できると報告が出てきてます。
そしてもう一つ、従来近視は大人になれば進化が止まるとされてきましたが、近年大人になっても進行が止まらない人が増えているようです。蛍光灯や LED の光の中にはほとんど含まれない、太陽光の中の 380nm の波長の光が、近視を抑制するそうです。子ども達は外に出て運動すべきで、近視の予防には屋外で(屋内では窓際でも無理で)、 1日2時間1000 ルックス以上の光が必要とされ、国によっては学校での野外活動を法制化されております。 よく瞬きをするようになると注意が必要です。パソコンやスマホ使用による視力低下や内斜視などの予防はアメリカ眼科学会のいう 20-20-20 ルール、 すなわち 20 分使っ たら 20 秒休み 20 フィート(6 メートル少し)以上離れたところを見る、 20 秒の休憩中に窓の外を見ることです。 同時に背筋を伸ばすストレッチをやって下さい。
子ども達に今必要なことは、岐路に立った時、どちらが自然かで選んでほしい。例えば、歩ける 距離なら車に乗らない、ゲームより屋外で遊ぶ、 (イチロー選手のように)運動は自然なストレッチから始める、 光を受ける体内時計に従い早寝早起き朝ごはん、 甘いお菓子より自然の果物や豆・ 小魚、 (砂糖に対する自然の味覚教育)、 カタカナ食品からひらがな食品へ、特に硬い食物でなく普通の日本の伝統食を一口 30 回しっかり噛むこと などです。 咀嚼運動は生理学的に「学習」で「早く食べなさい」は禁句です。 1980 年代動物実験により 咀嚼力と IQ は相関することは証明されております。 大谷翔平、松山英樹、大橋悠依、北口榛花など著名なアスリートやサッカー選手の多くは日本の自然のある田舎から世界へ出ています。

子どもの健康の変遷について~創校来の校医として~

新型コロナウイルス感染症は、3年前の当初より小児科学会の見解は、学校や保育園でのクラスターはないかあるとしても稀で、それよりも心理的圧迫による健康障害のほうが問題としております。閉鎖は感染流行防止の効果は乏しく、むしろ休むことにより家庭内感染リスクが高くなります。 子供は屋外で距離をとった活動をさせることは、 近視の予防にもなり、さらにオンラインなどでの勉学を充実させIT後進国を返上しなければなりません。
コロナ対策には免疫力向上からも口腔ケアが大切で、江戸期の日本は風通しのよい木造住宅に住み、便所は外に設け、土足せず、 (40℃前後でウイルスは死滅する) お風呂に入り、口臭の原因や細菌の培地になる舌の清掃もしておりました。
幕藩体制は西欧医学を取り入れ、人類が勝った唯一の感染症である天然痘も克服しました。迷ったときは昔の日本人はどうしたか?どちらが自然かを参考にしたいものです。
日本の少子化は人口高齢化と共に日本経済の活力を奪っていきます。少子化は経済力の低下に伴う 未婚化・ 晩婚化の進展及び夫婦の出生力の低下などが原因ですが、
行財政改革を進め、究極の少子化対策である 自然と 経済を活性化する必要があります。

文責 歯学博士(口腔生理学専攻) 岡村貞一

岡村 貞一             学校歯科医歴
1984年(昭和 59 年)~ 現在    守山市立守山南中学校
1986年(昭和 61 年)~1990年    守山市立守山小学校
1990年(平成 2 年)~ 現在      守山市立物部小学校
1990年(平成 2 年)~ 現在     守山市立物部幼稚園

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